小池 百合子

東京都知事 / 国際諮問委員会 議長


インタビューシリーズ#1

東京都知事 / 国際諮問委員会議長 小池百合子氏:

「資源循環分野は都の気候変動対策の柱。サーキュラーエコノミーの推進に待ったなし」

東京都はこれまでゼロエミッションに対してさまざまな戦略を推進してきたことで知られています。特にUNEP-IETC の担当分野でもある廃棄物管理の分野での先端的な取り組みについて教えていただけないでしょうか?

小池都知事:まず、2019 年の 12 月に「ゼロエミッション東京戦略」を3 つの視点から策定しました。その一つとして資源循環分野を本格的に気候変動対策に位置付け、都外のCO2削減にも貢献するということを謳っています。気候危機を回避するには、大量の資源を使い捨てる一方通行型を脱して、経済圏内でくるくる回すサーキュラーエコノミーが必要です。大消費地東京でサーキュラーエコノミーを確立するというのは、日本の国全体にとってもそのインパクトが大変大きいわけですよね。

そしてその象徴が東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会です。あの時の金銀銅のメダル、実は古い携帯電話の部品素材が活用されていたのはご存知でしょうか。表彰台もプラスチックのリサイクルで作った素敵なステージになりました。フランスのような遠方の国からも市民が集めた携帯が届いたり、諸外国のトップからも注目してもらえたことで、東京大会の取り組みやレガシーが世界にかなり届いたと思っています。

使用済みの製品がいったん資源となり、また同じ製品として生まれ変わる「水平リサイクル」などの技術開発もこれからももっと進めていく必要があります。それを皆さんにお伝えするために、「サーキュラーイノベーションフォーラム」というイベントを昨年より東京都環境局が主催しています。海外都市での先進事例を共有しあったり、それからメーカー・流通・販売・その他リサイクル関連のステークホルダーの方々との連携をイベントを通じて強化しているところです。都と民間企業グループとの共同事業も実施しています。サーキュラーエコノミーを実践している企業であることが経営戦略になるというのは、「いいことしてますよ」だけではなくて、その「いいこと」が実際に企業に利益をもたらしていくというようなところまで行くことですね。

都市間の学び合いモデルと発展途上国における環境教育

今後、途上国においても循環経済を導入していくためには何が必要だとお考えでしょうか?またそれに対する廃棄物管理分野で行うべきことはどんなことでしょうか?

小池都知事:UNEP-IETC は政府ベースで循環型社会の構築の支援を続けていると思いますが、自治体においては、東京都が関わっているような「都市間ノウハウの共有」もかなり進んでいます。廃棄物管理だけでなく水質や大気汚染の問題など、その大都市に共通する課題をみんなで解決をしていくために、モデルから学びあおうという、まさに都市の世紀ならではの取り組みです。

循環型社会の構築は廃棄物対策と密接な関係があります。単なる使い捨てであちこちほったらかしにするのではなく、捨てないこと、製品などを回していく仕組みが大切です。捨てないこと、廃棄物管理のあり方をさらに見直す動きは、最近のプラスチックの海洋汚染の解決にもつながります。自分の国で捨てたものの被害が自分の国に及ぶのでなく、捨てたものが流れ着いた他国に被害を与え、その国周辺の海洋水産物等にも影響を及ぼします。環境大臣時代に視察した南太平洋の離島国家においても、廃棄物がそこかしこに捨てられているのを目の当たりにし、発展途上国での環境負荷が少ない処理方法、廃棄物対策について、長期的には教育を充実させることの重要性も感じました。

「着眼大局、着手小局」による廃棄物管理へのアプローチ

今後のUNEP-IETCの向かうべき方向性やその使命、今後の期待に関してご助言をいただけるでしょうか?

小池都知事:これからの30年の少し手前の2050年において、今のようなプラスチックの海洋汚染が続くと世界中の魚よりもプラスチックのゴミの量が多くなるという予測がありますね。便利さ、豊かさ、人口増が廃棄物を増やすことにもつながりかねないことの象徴です。これまでの30年の積み重ねは、次の30年に必要なベースを固める時期になったのではないかと思います。

UNEP-IETCが進めてきた研究をベースにしつつ、地球を守りましょうという大きなテーマへの道のりを、いかにかみ砕いて一歩一歩進めていくかに期待しています。一人ひとりの積み重ねで地球が温暖化したり、そしてゴミの量が増えたりするわけですから。

囲碁や将棋の世界で使われる「着眼大局、着手小局」という言葉があります。全体に目を配りつつ、それでいて一つ一つの駒をどのように進めていくのか、という視点は廃棄物管理の分野においても通じる面があるでしょう。一人ひとりが「自分ごと」として捉えていけるようにするための支援が欠かせないと思います。全世界80億人が一人ひとりの心がけ、行動が変わらなかった場合、環境問題はより深刻となり、その影響は何十年後かの人たち、子供たちに及ぶことになることは明らかです。今の地球を残すという「大局」についての意識を共有していくこと、子供たちへの教育は特に大切ですので、これも一歩一歩支援を積み重ねたいと思っています。